【鹿児島】鹿児島の焼酎文化の普及を目指し、全国140店の酒販店がオリジナルブランドの本格芋焼酎(県下7蔵9銘柄)の販売に取り組むなど活動する「焼酎文化・いもづるの会」(平成13年発会、八幡正則会長、今村茂吉事務局長<鹿児島市「武岡酒店」>)は6月3日、鹿児島市内のホテルで総会・研修会を開いた。ブームが沈静化した状況下、「単にモノを売るのではなく、文化を伝える原点に立ち返る」(八幡会長)スタンスが、あらためて強調された。翌日には関係2蔵の見学も行った。
今回の総会・研修会には約100人が出席。研修会講師には、鹿児島大学教授で薩摩の歴史に詳しく、地理的表示「薩摩」焼酎のPR検討委員会(鹿児島県酒造組合連合会・諮問機関)の委員長を務める原口泉氏(演題「篤姫といもづるブランド」)、酒類流通を独特の視点で論じるIPA日本酒情報研究所代表・橋本隆志氏(「勝利の方程式=隙間の商売」)を招き、薩摩の文化や酒販店経営について学んだ。
冒頭、あいさつに立った八幡会長は、原点回帰を強調。「焼酎は近代文明、技術的・物質的所産でもあるが、麹菌が働き造ってくれる伝統文化の所産でもある。文明は進歩的でグローバル化し、やがて衰退するが、文化は保守的だがローカルに生き続ける。焼酎の原料や仕込み水は大地の恵みであり、微生物の恵み、それを働かせる人の恵みがあって生まれる。恵みに感謝し、大事に焼酎文化をはぐくんでいきたい」と訴えた。「商品に国境なし」として、グローバル化のなかで競争にたえる決め手も文化にあると結論付けた。
同会会員、かごしまの食を語る会・大西緝会長(鹿大教授)は、日本の食生活において油の摂取量が増えるとともに、焼酎の消費が増えたとの説を引用。焼酎は西洋型の食生活のなかで定着しただけに、再び日本食を見直す食生活へと変われば、動向も変わるのではないかとの疑問を呈した。反面、焼酎は庶民の“民の酒”だと主張。「差別化商品ではなく、民の酒だから定着したのであって、特別なモノではないモノにならねばならない」との考えを示した。
総会協議ではあらためて、今村事務局長が会活動の指針を示した。「有名銘柄を追うことなく『種をまき、苗を育て、収穫を喜び合う』生産者のような純粋で謙虚な精神を基本理念とする。ブーム的な動きも沈静化した今、原点に立ち返り啓もう活動に取り組むべき本番時代の到来を意識し、文化の伝達に努めなければならない」。そのための試飲会など地道な宣伝・広報活動も促し、「各地区、各個店での試飲宣伝イベントに支援補助を行う」ことも提案した。
研修会講演では、原口氏が、来年放映予定のNHK大河ドラマ「天璋院篤姫」にまつわり、薩摩の歴史を深く論じ、PR活動が本格的に始まった地理的表示「薩摩」焼酎についても説明した。
篤姫は薩摩・島津家の分家に生まれながら、江戸幕府第13代将軍・徳川家定の正室となった女性。家定が亡くなってからは天璋院と名乗り、明治維新の動乱期を生きた。ドラマの脚本制作にかかわっていることもあり、篤姫の生涯を貫いた薩摩の女性の生き方、また薩摩の食文化について語った。
「薩摩」表示は、県産のさつまいものみを使用した本格芋焼酎にしか使用が認められず、「自ら首をしめるような、厳しいものだが、それだけに消費者の信頼を得ることができる」と述べ、世界へのアピールにも意欲を示した。
橋本氏は従来型の専門店の限界を指摘。専門店の土台は日本酒の地酒ブームで築かれ、その歴史は30年程度しかなく、「ずっとマニアを相手にしてきた」。百貨店の外商と同じで、一人の顧客に多くを買わせて来た。限られた客しか見えないままの商売を続け、隙間に気づいていない。ブランド集めで来店客増が期待できた時代は終わり、料飲店筋も、地酒は安売りしない業務店に取られつつある。店主の顔、カリスマは後継できず、経営を続けるには組織化が必要だとした。このままでは「専門店は消えるかもしれない」とも。メーカーもいまの専門店に販売を頼ることは難しい。試されているのは売る力であり、品揃えのブランドではない。料飲店には未だ多くの隙間がある。現状打破を目指し、「未知の客、新しい市場へ行こう」と呼びかけた。