熊本局鑑評会 “熊本酵母吟醸酒”の部新設 香り偏重を修正、吟味重視

2008年03月07日

 【熊本】熊本国税局(熊本市)が主催する酒類鑑評会(管内4県=熊本、大分、宮崎、鹿児島の清酒と本格焼酎が審査対象)が、今年から清酒の出品規格に、“熊本酵母吟醸酒”の部門を新設する。他酵母使用の吟醸酒とは別枠で審査。香りに偏ることなく、まろやかな“吟味”を造る熊本酵母仕込みの吟醸酒をクローズアップし評価する規定変更で、吟醸酒ブームに火を付けた熊本酵母由来の酒質を、今あらためて世に問い、“清酒県・熊本”をアピールする契機ともなりそうだ。

 出品酒の審査を担う同局鑑定官室(三宅優室長)によると、規定変更は同局主催平成20年酒類鑑評会(審査結果の発表、入賞場公表は4月18日予定。本格焼酎部門も同日)から。局管内4県のうち、主に熊本、大分の2県で清酒製造が行われているが、その清酒部門に“熊本酵母吟醸酒”の部を新設。受賞・表彰対象とする。

 規定変更の背景には、鑑評会を舞台とした“吟香”競争への異論がある。「清酒製造用酵母の育種技術の進歩により、華やかな吟醸香を大量に産出する酵母が全国各地で開発され、安易に吟醸香をつくる技術は大いに発展しているが、まろやかな吟味をつくる技術は、吟醸香をつくる技術に比べ遅れている」。

 こうした異論は、実際に出品酒審査にかかわる、メーカー関係者を含む品質評価員から寄せられ、今回の“改革”につながった。「食中酒としての吟醸酒には、まろやかな吟味が必要不可欠で、鑑評会でこの技術の進歩向上を図っていく必要がある」。熊本酵母を使いこなす技術継承への懸念も、部門新設を後押しした。「熊本酵母は吟醸香をつくるのに高度の技術を要する。その造りを担ってきたベテラン杜氏が引退しつつあり、後継の製造責任者に技術の継承を図らねばならない」。熊本酵母は、昨年平成19年酒類鑑評会の出品製造場22場中、21場が使用。“熊本”を冠する部門新設に対し、大分のメーカーからも、目指す酒質は熊本酵母由来のものとのことで反対はなかったという。

 出品規定の変更に伴い、清酒は3部門(「熊本酵母吟醸酒」「吟醸酒」「燗酒」)に分けて評価。熊本酵母は、「(株)熊本県酒造研究所から頒布された酵母<KA-1、KA-4と称されるもの>、協会<日本醸造協会>9号酵母、協会901号酵母、並びにこれらを各製造場が保存している酵母」--と規定している。

 「熊本酵母」は、昭和27年ごろ、熊本県酒造研究所(熊本市、「香露(こうろ)」醸造元)の醪から分離された酵母で、39年から熊本局管内の酒造場に頒布開始。同酵母を使用した吟醸酒の品質の優位性が認められ、43年に日本醸造協会を通じ「協会9号酵母」として全国頒布された。50年には同酵母の泡なし変異株として「協会901号酵母」が分離された。

 熊本酵母は他酵母と比較し、低温発酵に優れ、華やかな吟醸香を生成し、酸度が少ないまろやかな吟味をたたえる吟醸酒になる、とされる。「最近のバイオテクノロジーで開発された高香気生産性の酵母と比較しても、吟醸造りに要求される醪(もろみ)後半の低温下においても発酵が止まることなく、コメを充分溶解しても完全発酵させることができ、食中酒としての吟醸香は充分あり、まろやかな吟味を有している吟醸酒となる」(同局鑑定官室)。

 実際の審査(予審3月18日、決審同月24日)では、「熊本酵母の特色を生かした適度な香りとまろやかな吟味を備え、特にまろやかな吟味が調和していることを重点に品質評価を行う」ことになる。

 全国鑑評会の金賞受賞の方程式として、広島県の杜氏が“YK35”(“Y”山田錦を、“35”35%精米歩合で、“K”協会9号酵母で仕込む)を提唱。吟醸酒ブームをけん引した。昭和60年代の全国鑑評会出品の約8割が熊本酵母で醸造されたといわれている。

 燗酒審査でも、改革を行う。純米酒を対象とするなどの出品規定の一切を不問とする。特定名称酒かどうかも「不問」。特定名称酒か否かや、製造年度、使用酵母、アルコール分、出品時酸度も問わない、完全な自由出品。普通酒での出品や古酒での出品で評価を得る可能性もある。「燗酒は純米酒、とのイメージが定着することを懸念する」(鑑定官室三宅室長)との発想で、出品規定を設けず、純然と燗酒にふさわしい酒質を探るねらいがある。

 同局の受賞・表彰の対象とはしないが、鑑評会での評価をメーカーが商品PRに活用することは認める。

 本格焼酎の部、芋焼酎の審査に関しても改革を試みる。鑑評会出品に際しては清酒の原料米は山田錦に集約していたのと同様、芋焼酎では原料芋は黄金千貫(こがねせんがん)に集約しているのが現状。酒質画一化などの傾向を打破し、市販商品レベルで人気の赤芋系など黄金千貫以外で仕込んだ芋焼酎の出品機会を増やすため、出品点数の規定を改める。通常、「1原料区分につき2点以内とする」との規定を、甘藷(サツマイモ)原料については、「複数品種の甘藷を使用した出品に限り、3点の出品を認める」と改め、多様な芋を原料とした芋焼酎の出品を促す。